オーディオインターフェイスの最大入出力レベル


スタジオなどにシステム導入するときの音声レベル合わせというのは重要な作業です。
ところがデジタル録音とアナログ録音が混在するような現在の状況では少々混乱することもあるのではないでしょうか。

最近私はオーディオIFの機器選定の際に最大入出力レベルを確認するようにしています。
入出力レベルが調整可能な機器であれば問題は少ないのですが、オーディオIFや録音再生機などではレベル設定の無いものも多いです。
あるいはデジタル入力レベル調整のように過大入力を減衰させても歪みを回避できない方式のものであると意味が半減です。

まず音量関連の単位をちょっとまとめてみます。
dB音量の具体的な値ではなく倍率を意味する対数。
原音に対して2倍の音量なら+6dB、半分の音量なら-6dB。10倍なら+20dB、10分の1なら-20dB。
dBm1mWを基準0dBとした単位。
600Ωインピーダンスの古い業務機のアナログ音量を表現するのによく使用される。600Ω負荷に1mW消費させるには0.775Vrms必要。
dBu前述0.775Vrmsを基準0dBとした単位。
インピーダンスがハイ受けロー出しのプロ機のアナログ音量を表現するのによく使用される。
dBV1Vを0dBVとした単位。
dBFSデジタル音声の音量を表す。デジタルフルビット振り切れの状態を0dBFS。
rms交流の実効値。dBm、dBu、dBVはrms表現。正弦波の場合は交流波形の頂点より3dB低くなる。

機器の入出力レベルは規定レベルという表現になっていると思います。
プロ機では0dBuや+4dBuとなっています。民生機のレベルは概ね-10dBV≒-7.78dBu。
これは基準のレベルであって、入出力可能な最大レベルという意味ではありません。
例えば楽曲を録音再生する場合に、普通の部分なら問題ないけど音量が急に大きくなる部分では歪む、というのでは困るので、ある程度のマージンを設けています。
これは20dBだったり16dBだったりしますが、厳格な決まりはなかったと思います。20dBあると大抵の場合で安心という感じでしょうか。
規定レベルにマージンを足したものが最大入出力レベルになります。
マージンは大きいにこしたことはないのですが、過去においてはその数値の差はそれほど重要ではありませんでした。
アナログ機器でアナログテープ録音する場合などはほどほどのレベルで録音するのが良いとされていましたし、 あるいはテープが記録できるレベルというのも厳密にはバラバラだったですし。
なので規定レベルで入出力して十分にマージンがとれていれば、そのマージンが機器間で2デシくらい違うからといって即問題にはならなかったはずです。
基本的には使われないからこそのマージンですよね。

ところがデジタル録音の時代になると状況が変わってきます。
デジタルは記録の原理上、最大値をオーバーさえしなければ大きいほど音質が良いからです。0dBFSというはっきりとした上限値もできました。
それでも昔のオーディオCDは多少のマージンをとって記録されていましたが、その後は普通にフルビットを使用するようになっています。 近年ではフルビットどころか、いかに音圧をあげて詰め込むかという競争?です。波形が切れちゃってるのもあるくらいです。
現場で各自録音する際には-20dB等のマージンを定めて運用されていることが多いとは思いますが、それでも市販オーディオCD等を扱う機会は多いはずです。
またPCで音声を扱う場合には別の要素もあります。
オーディオIF側のアナログ入出力レベルはOSやアプリケーション側からは全くあずかり知らないところなので必然的にdBFSを基準に音声素材を作成します。
そうでなくともネットワークやリムーバブルメディアでの素材のやり取り、あるいはデジタル入出力される場合も考えるとこちらのほうがよいので、 出音ではなく素材の記録レベルを主として考えるようになったはずです。
とにかくアナログ入出力の規定レベルは意味を失い、マージンが全く無い素材も扱う必要性が出てきました。

こうなってくると最大入出力レベルの差が問題になってきます。
例えば最大出力レベル+20dBuの再生機でCD音源を再生して、最大入力レベル+18dBuの録音機で録音するとします。 レベル調整機能がなければ確実に2デシぶん歪みます。規定0dBuの機器同士で録音再生してるのに歪んでしまうということになります。

ではなぜ最大入出力レベルは各機器で統一されていないのでしょうか。
音量というのは増幅させるにはアンプが必要ですが減衰させることは比較的簡単なので、 最大入出力レベルが他所の製品と同じかそれより大きくなるように設計すれば問題はずいぶん減るはずです。
ところがアナログ回路設計上、大きな音量を出すというのは少しやっかいなことなのです。

ここから先ほどの単位の話になります。
例えば古い業務機で見られる600Ω+20dBmのバランス回路を考えてみます。
600Ω機のような入出力インピーダンスを同じにする方法をマッチングといいます。これは入力時に音量が半分に減衰します。
つまり規定の倍の電圧を出力してやらないと十分なレベルを保てないのです。
ハイ受けを想定した通常の出力を600Ω入力にも接続できるようにするには、2倍の電圧を出力できるようにするか、出力インピーダンスを極小にして600Ω入力でもハイ受けとなるようにする等があります。 いずれにせよ大きな電力に耐えられる電源やデバイスが必要になりますが、 後者の方式は出力が短絡された場合に大電流が流れるなどの設計上のリスクもあります。
電圧を大きくする場合は、出力時に+26dBuほど出せるような設計ということになりますが、 バランス回路であればホットコールド各々の振幅は半分でよいので+20dBuということになります。
+20dBu(rms)は電圧では7.75Vrmsですが、これは平均レベル換算なのでピークでは+3dB分高くなります。(正弦波の場合)
波形の正負の両方向に電圧が必要なので、単純計算で理論上約±11V、片電源であれば約22Vの電源が必要になります。
実際はそれなりの余裕が欲しいのですが仮に最低24V〜としておきましょうか。
24V以上となるとちょっとした電圧ですよね。
そもそもこれらが設計上結構な負担になるというのも理由の一つとしてハイ受けロー出しが普及したのですが。
ハイ受けロー出しでは入力時に減衰がほぼ無いので+20dBu出力できる回路には最低12V〜でしょうか。

オーディオIFに関して考えると、この電源の電圧や容量がなかなか微妙な値なのだと思われます。

まずPCIバスでは+12Vと-12Vの電源を取ることが出来ますが、よそから来た電源をそのまま使うのは避けて自前の回路上で定電圧化をするのが一般的です。
最も基本的な方式としては三端子レギュレータを使う方法がありますが、これは得たい電圧より3Vほど高い電圧をかける必要があります。 順当に+9V-9Vレギュレータを使うと+20dBu入出力ができるはずです。実際にLynxやESI Juli@などは+20dBu入出力が出来るようです。
オーディオ回路にとってはうってつけの電源ということになりますね。
+26dBuには少し足りないですか。
昔とある業務用のPCIカードで+26dBu入出力できるという気合の入ったものがありましたが、それはボード上にデカーいDC-DCコンバータが載っていました。 これは電源電圧以上の電圧を得たり電圧を下げずに定電圧化したりできるのですが、変換効率が良くないので消費電流や発熱が増えますし回路構成も少し大仰になります。

最近増えているFireWireオーディオIFですが、IEEE1394バスでは+12V±5%、0.5〜1.5Aほどの電源が取れます。
がんばれば+20dBuまで出そうな気もしますが、例えばRME製品は+19dBu、MOTU Ultraliteは+18dBu程となっています。
FOCUSRITE Saffire PROのようにバスパワーでは+16dBu、外部電源を接続すると+22dBuまで出力できるという製品もあるようなので やはり電源がネックなのでしょうか。

USBでは5V±5%、500mA電源ですからこれはかなり厳しいです。
EDIROL UA-25は最大入出力+16dBuらしいですが、消費電流は規格いっぱいの480mAという苦労がうかがえます。

別途電源を用意してまで入出力レベルを上げる必要があるかどうかの判断はそれぞれの設計思想によるでしょう。 むしろ数dBデカイ音を扱えるよりも、すこしでも消費電力が少なかったり、電源ケーブルが不要であるほうがよいというユーザーのほうが多いと思います。
それはそれとして、せめて全ての製品で最大入出力レベルが仕様表記されているとずいぶん助かるのですが。